INTERVIEW

第10回『小倉泰治さん『FUNTIME』インタビュー』

7月12日に、ANRI史上初のスタジオLIVE録音のアルバム『ANRI with Bestbuddies STUDIO LIVE!』が発売になります。これは、3月に行われたビルボードでのライブツアー『ANRI with Bestbuddies』のステージをそのままスタジオライブ形式で収録したもの。懐かしいバンドメンバーと一緒に生き生きと歌うANRIの姿がそのままアルバムに詰まっています。 今回は、そのバンドの要であるキーボードでアレンジャーの小倉泰治さんに、ステージやレコーディングのお話、今のANRIに期待することなどをインタビューしました。(ライター・小野緑)

今回のビルボードライブは、バンドも懐かしいメンバーが揃い、ANRIさんのルーツのような曲がたっぷり聞けて嬉しかったです。このライブをそのままスタジオで再現した、ワクワクするアルバムが7月に発売になるそうですが、最初から、レコードを前提にスタートしたのですか?

小倉いや、まずライブをこのメンバーでやろうかというところから始まりました。それからレコーディングですね。3月のライブツアーが終わった次の週に、そのままライブの雰囲気でレコーディングに入りました。ライブの勢いをあのまま持ち込んで、スタジオで録ってしまおう!みたいな感じですね。

いいですね、そういうのって。

小倉そうですね。楽しかったです。

今回、バンドを懐かしいメンバーでやろうというのは、ANRIさんの方からの提案ですか?

小倉そうですね。やっぱり、ファンのみなさんの心に焼き付いているような代表曲が出来た時代のステージはすごく楽しかったし、みんな今でも信頼できるメンバーなので、また是非やりたい!みたいな話をいただいて。ANRI自身がそういうのをやりたがっている気持ちがすごく伝わってきたし、僕も、彼女とガッツリ組んでライブをやるのは……そうですねえ、ざっと7〜8年ぶりだったので、それだったら、いちばんやりやすいメンバーとやりたかった。そのへんの意見が一致して、いい感じで話が進みました。

私は、ドラムのケニーが懐かしかった。彼の存在はとってもインパクトがあったので。

小倉そうですね。本当はギターの高山一也くんも、ステージを作り上げていく段階ではなかなかスケジュールが合わなかったのですが、当日は見に来てくれました。今回のギタリストは、僕が最近一緒にやって気に入っていた人で、世代的には僕らより10歳ぐらい若い人にお願いしました。

ファンの方々も小倉さんが中心になってやるステージっていうのが、まず懐かしいわけですよね(笑)。

小倉ずっと同じメンバーでというのも、それはそれでマンネリになってしまいますからね。ずっと長くやっていると、同じメンバーばかりじゃなく、いろいろ変えて、変化のあるステージを作っていくっていうのは、どのアーティストでもありますからね。

バンドの再結成なんかもそうですが、こういう企画は、昔が懐かしいから、みたいなイメージにとられがちですよね。でも今回見て、懐かしさももちろんありつつ、ステージがまたリフレッシュされて、ANRIさんのエネルギーがすごく感じられました。そこがすごくよかったと思います。

小倉僕も、今回またオリジナルを演奏していた頃の人が集まって、原点に帰ってやるのもいいのかなあみたいな感覚はありました。

演奏がどうの、アレンジがどうのという前に、雰囲気、空気がとてもよかったです。

小倉そうですね。本人も楽しくやっていたし、バンドの空気に自然に乗ってやれる感じがあったんじゃないですかね。バンドが自分より若い世代だったりすると、どうしても自分が前に出て引っ張っていかなければ、みたいな気負いもあるでしょうし、特にANRIは、そういう部分ですごく頑張っちゃう人なんで、今回はそのへん、リラックスしてバンドに委ねて楽しんでいる……みたいな感じはありました。もともと今回のステージは、本人がそういう感じでやりたいって、最初から言っていましたし。

実際ステージをやってみてどうでしたか?

小倉僕もいろいろな時代の彼女を見てきていますが、とにかく楽しんでいる雰囲気がすごくよかったですね。ANRIみたいに長くやり続けていれば、いろいろなことがあって、それなりに苦労もあるでしょうが、今回はとにかく楽しんでいましたね。声もすごく明るいしね。
特に今の時代は、CDを売ることより、いかにステージでいいパフォーマンスをするかというのが求められているし、お客さんもそれを期待しているので、それができるような空気を作っていかないといけないかなと思いますね。クオリティもそうだけど、意識かな。本人のライブに対する意識が、今回、今まで以上に上がったかなという気がします。

音がどうのというよりも、まず大事なのはそこですよね。だから、お客さんのノリもすごくよかったですね。

小倉そうですね。すごく楽しんでいるなっていう雰囲気がステージにも伝わってきました。昔からANRIの音楽を聞いていた層が多かったと思うので、よけいに自然に聞いてくれたのかなっていう感じでした。

毎年ビルボードでやっていますが、今回は最初から総立ちで盛り上がりましたよね。

小倉そうですね、二人の黒人が最初から盛り上げてくれたので。構成的にも最初から盛り上がる感じにしていましたから。

とってもいいファンの方々が、ずっとそうやって応援してくれているのが素晴らしいなと思いました。

小倉それはやっぱり本人が、毎回丁寧にコンサートをやっていて、その一生懸命さや想いが伝わるのだろうと思います。ライブの前になると、結構ナーバスになるらしく、ちょこちょこ僕に電話がかかって来ます。それだけ本人が真剣になっていることじゃないかと思いますね。そういうのは僕らにも伝わってきますよ。

今回のアルバムは、初のスタジオLIVE形式ということですが、レコーディングはどんな感じでしたか?

小倉もちろん楽しいのは楽しかったんですけど、曲数が多かったので、レコーディングの前にライブでやっているとはいえ、かなり緻密な作業も必要でした。全部で12曲、ステージで演奏した曲は全部録ってそのまま再現させましたから。基本はライブの雰囲気そのままの、ライブ感や息遣いまでも収録した、いわゆる一発録りです。ビルボードでの演奏の雰囲気とかパフォーマンスの雰囲気を、そのまま自然にスタジオに持ち込んでできたと思います。今までのヒット曲や代表曲ばかりですが、そういう意味では、今のANRIのボーカルの魅力や、バンドとの一体感が感じられる、今までにないアルバムになっていると思います。

今、そういうアルバムってあまりないですよね。楽しみです。

小倉そうですね。あまりないかもしれない。だから僕自身も、ライブ感とスタジオの緻密さ、どちらを取るか悩んだところもあります。ライブ感を生かしながら、音にもこだわる。その難しさを感じました。

そのへんは、小倉さんの腕にかかっていたわけですね。

小倉いや、いや、そこはみんなでいろいろと意見を出し合って仕上げていきましたから。とにかく、ライブでの手応えがすごくあったので、それをよりいい音で残したかったという感じですね。

音の好みはいろいろ違うと思いますが、昔からのファンの方々が、どんな部分にANRIさんの魅力を感じるかは小倉さんが知り尽くしている気がします。

小倉ありがとうございます。まあ、誰に向かって作るかですよね。昔からのファンの方を大切にするのはもちろんなのですが、ANRIを初めて聞くような層にも発信していきたいし。できればもうちょっと広い層にもアピールしたいなっていうのはあります。

時としてファンの予想を裏切っていくのも大切ですからね。

小倉僕もそれはずっと考えています。今は情報がたくさんありすぎて、ネットにもいろいろなことが書かれていますよね。ほんの少数の意見でも、大げさに書かれていたり。そこはあまり気にしすぎてもいけないと思います。

そうですね。極端に言えば、ANRIさんが自分の好きなことやっていれば、ファンはそれがいちばん嬉しいのではないかと思います。

小倉ほんとそう思います。今でもANRIは、エネルギーや真剣さがすごくあって、少しも色あせた感じがしてないですから、まだまだいろいろできると思います。この後は、いつものレギュラーバンドでやっていくのですが、来年また今回のメンバーでやりたいねっていう話も出ているので、たぶん、来年も同じメンバーでライブをやると思います。

今回のアルバム『ANRI with Bestbuddies STUDIO LIVE!』に収録されている曲に関して、簡単な解説をお願いします。

小倉「Catch The Wind」
昔からいろいろアレンジを変えてライブの度にやっていましたが、今回はオリジナルに近いものを元にしました。ベーシックなアレンジに、あとはそれぞれのミュージシャンに任せてライブ感を出しています。基本的な構成やグルーヴとかはオリジナルの雰囲気ですね。
「缶ビールとデニムシャツ」
これは、僕の好きなアルバムの「1/2&1/2」のナンバーです。アルバムは打ち込みで、コンピュータのドラムとベースで作りましたが、それを元にして、そのグルーヴを生で演奏したという感じです。
「ONE」
オリジナルはもう少しテンポが速いのですが、ライブバージョンっていうことで、いちばんアコースティックな雰囲気でやりました。基本はオリジナルに近いですけが、曲自体がじっくり聞きたい感じの歌なので。
「LOVERS ON NENUS」
これも僕が好きな曲ですね。基本はオリジナルに忠実にやっていますが、ところどころそれぞれの楽器が、自分の特色を活かすような感じで自由にプレイしていますね。そのへんを聞いていただけたらと思います。

プレイの生き生きした感じは、レコーディングの前にライブをやっているところがポイントですね。

小倉そうですね。本当はアコースティック・バージョンでピュアな感じでやりたかったんですけど、敢えてライブの感じでやりました。
「Secret Lovers」
これは昔から杏里が好んでやっていた曲です。彼女はAtlantic Starrの曲が大好きですからね。デュエットの曲として歌うことが多いのですが、杏里は歌いやすそうに歌っています。ただ、レコーディングとなると、やはり英語の発音などをすごく気にして細かくチェックしていました。音域とかリズム、メロディは本人にとても合っていてすごくいい感じだと思います。
「Between The Sheets」
これ、僕がやるのは初めてなんですが、ネーザン・イーストっていうアメリカの有名なベイシストのライブにANRIが呼ばれたときに歌った、彼がFourplay(フォープレイ)っていうバンドでやっていたバージョンです。もともとはThe Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)のすごく有名な曲です。それをちょっとジャージーにした、Fourplayバージョンでやりました。Fourplayはフュージョン界の大御所ですからね。そこにネーザン・イーストがいて、これはその当時チャカ・カーンが歌ったバージョンです。それを元にして、今回のミュージシャンのテイストを入れた感じで仕上げました。
「Move Me」
これは、オリジナルはハワイで録音したアルバム『MOANA LANI』に収録されているものです。それをちょっとロックっぽくしました。音数を少なくした感じで。バンド人数が少ないので、音色づくりはちょっと工夫して、ベースはリミックスバージョンです。
「悲しみがとまらない」
これはもう、どオリジナルのいちばん最初のバージョンです。この歌は何度かアレンジを変えてステージでやったり、アルバムでもリアレンジして、ボサノバっぽくやったりしていますが、今回はいちばん王道のオリジナルでやりました。
「Cat’s Eye」
これはオリジナルがちょっとテクノっぽいので、今回は角松敏生さんがアレンジした、ホーンセクションが入ってちょっとフュージョン的なアレンジのバージョンでやりました。
「SUMMER CANDLES」
これも、これまでいろんなバージョンを作っていますが、最初に僕がアレンジしたものでやりました。
「オリビアを聴きながら」
これも、ほぼオリジナルに近いです。音色はちょっと違いますが、ファンの人が聞いて、あ、オリジナルだなってわかる感じですね。イントロですぐにわかります。今回は特に、ドラムなど入れないでしっとりやってみました。アコギとキーボードだけでやる感じのバージョンです。
「嘘ならやさしく」
頭にコーラスを足して、途中にメンバー紹介が入るということで、少し間奏が長く入っています。基本的にはオリジナルの感じです。ライブの流れのままなので、すごく聞きやすいですね。

今回のステージとかアルバムによって、ANRIさんはまたモチベーションがさらに上がっているようですが、今また小倉さんがANRIさんに期待すること、これからこうなってほしいなどということはありますか?

小倉今回、ライブをやる前にいくつか提案したのですが、もっとカバー曲をやったらどうかなって思っています。洋楽でも、邦楽でも自分が歌い慣れた曲を、カーリー・サイモンやリンダ・ロンシュタットがジャズを歌っていたように。例えば今のメンバーなら、僕も含めてジャズに興味があるし、ミュージシャンも活かせるんじゃないかと思います。そうやって、いろいろ試して、新しいものを発信するかたちにできたらいいですよね。

大きなホールでのライブはどうでしょう?

小倉有りなんじゃないですか? ただANRIの中では、音楽を自然に楽しむ世界をひとつ作りたいみたいなところがあって、それが今回のライブになったわけで、まずそれからハズレないコンセプトでいろんなことができればいいかなと思います。音楽的には、レコード会社やエンジニアとか、いいスタッフが集まっていますし、今本人のエネルギーもすごくいい感じなので、チャンスだと思います。タイミング的には今年から来年にかけて、何か新しいことができそうな予感がしています。そこで協力できたら、僕もいろんなことをやりたいです。カッコイイことをね。

楽しみですね。

小倉別に気負ってやる必要はないですが、ANRIってやっぱりインターナショナルな雰囲気がありますよね。だから、ウエストコーストあたりでいいミュージシャンとやるのがいちばん合ってる気がするんです。この間LAのマイケル・トンプソンにギターを入れてもらったんですけど、やっぱりいい感じだなあって。原点を感じましたね。やっぱり何と言っても、自分が自信をもって楽しくできるのがいちばんだと思います。